May 18, 2007

マイ・ピーターパン




指ぬきを用意した。
ピーターパンがやってきたとき、彼のどんぐりと交換するためのものである。
 
 こんなものを真剣に用意するなんて、ばかげてるかもね、って思う。
でも、わたしは彼の姿を半身まで見ることができたし、きっともう一度、会えると思っているし、そして今度こそは、わたしも夜空の向こうへ連れて行ってくれると信じたい。もっとちゃんと信じたいから、この指ぬきを、よく見えるところに置いておきたいのだ。
 
 静かに、そっと心を清ませていないと、彼が窓辺に寄って、ひそめている息を聴き取れない。目には見えない存在が、同じこの世界に存在して、ともに世界を作っているのだいうことを信じられないと、彼の姿を見ることはできない。そして、夜見ることが許される夢と、昼間の現実とは、けっして二つにわかれるものではないと勇気を持てなければ、彼といっしょに空を飛ぶことはできないだろう。
 
 永遠のこどもであるピーターパン。でも、こどものままでいるとは、分別のないままでいることではない。自由な心が、気ままな心とはちがうのと同じように、こどもの心とは、社会的に洗練されることによって失われる運命のものでも、理性が成長することによって小さくなってしまうものでもなく、むしろそれらを身につけることによって、かなえられる夢をふやせる関係にあるものだろう。わたしたちは、そのために成長するのだし、縛られたくも、汚されたくもない美しい夢を守るために、困難にも屈しない強い心をめざすのだろう。

 じつはわたしには、ピーターパンにだったら打ち明けられそうな秘密がある。
ピーターパンとだったら分け合えそうな夢がある。それはひとつの、わたしがわたしでいることのできる、最後の砦のようなもの。どんなに生き方が、考え方が、姿が変わっても、唯一変わらない、これはわたし自身だと心から言えるもの。
そんな自分をもっとよく信じたいから、わたしはこの指ぬきを、南の窓辺に置いておきたいと思う。
そして彼が迎えにきてくれる日を、心を清まして、楽しみに待ち続けたいと思う。

ピーターパン http://www.youtube.com/watch?v=Yea45vX1Lcg